秋が深まりはじめる頃
黄金色に実った田んぼの稲さんたち
冷たい風がざわざわ通り抜ける
ある朝のこと
大人と子どもが 鎌を持って
わいわいやって来た
その昼は
ぽかぽか とても暖かだった
さっきまで 大地に根を張り
息をしていた稲さんたちは
やってきた人たちから
全部 刈り取られて
束ねられて
竿に干されてしまった
明日 いつもの朝が
迎えられることは
もうなかった
夕方の田んぼには
その人たちの足跡と
刈られた 稲の株のあとが
静かに残っていた
稲さんたちは この田んぼで
お日様を浴びて
雨を浴びて
空を流れる雲を眺めて
夜には 星空を眺めて
みんなで背比べしながら
大きく育った
できるだけ
地中深くに
根を張って
できるだけ
空に向かって
葉を伸ばして
この田んぼで
精一杯に 生きてきた
どんな風に
ここで育ったのか? って
それは
これから
書いてみよう
・・・
梅雨に入る頃の用水路には
たくさんの水が 流れはじめる
人がやってきて
田んぼに 水を引く
最近は 機械で
土を均すことが多いけれど
昔は 牛を引いて
土を均していた
そのやり方は 千年以上も
人が受け継いで来た やり方だ
田んぼに水が張られると
赤ちゃん稲さんたちは
苗床から田んぼへ運ばれて
いよいよ田植えが はじまった
水がいっぱい張った田んぼには
メダカたちが
すいすい泳いでいる
大きなナマズが入ってきて
田んぼに卵を産みに来ることもある
どこで冬を越したのか
カエルや小さな水の生きものたちが出て来て
いっせいに卵を産んだようだ
いつの間にか
オタマジャクシや 水の中で暮らす仲間たちが
すいすい泳いで賑わっている
南風が吹きはじめると
でっかい雲と一緒に 夏がやってくる
その風に乗って
南の国から 渡り鳥たちもやってきた
苗さんも 生きものたちも
さんさんとした 太陽の光を たくさん浴びた
夜には カエルや虫たちの
大合唱もはじまった
みんなの命の歌は
とても賑やかだ
それを聞いて
稲穂は グングンと 背を伸ばす
夏の土用の日の頃は
2週間ほど 水路から水が来なくなって
土が乾くから
稲さんたちは
水を求めて
地中深くまで 根を伸ばす
ザリガニが あぜ道に穴を掘ってみたり
田んぼじゅうを のそのそと歩いている
クモたちの細い糸は
稲さんたちを 糸電話で繋いで
仲間とお話しをさせてくれた
早朝には
穂先や クモの糸に朝露がついて
キラキラきれいだ
タニシやイナゴたちに
茎や葉を かじられたりもした
シラサギやカモたちも
毎日やって来た
ときどき
田んぼのようすを見に
人がやってくると
イナゴたちが 羽ばたいて逃げる
その辺りだけ
パサァァと
羽音が広がる
さぁ 次は
本格的な 台風の季節だ
風が稲穂を揺らすから
風の通り道がよく見える
そうして 秋になると
水路から水が入って来なくなった
サギなどの水鳥たちも
南の国へ渡る支度を はじめたようだ
稲穂の実も膨らんで
緑色から だんだんと熟されて
豊かな実りで頭を垂らす
田んぼは
黄金色の絨毯を
広げたようになる
秋が深まって
水鳥たちが 南の国へ帰るころには
稲刈りの準備がはじまった
人にとっては
待ちに待った お米の収穫だ
稲たちにとっては
死刑執行の日が近づいているということだ
いつも 田んぼには
たくさんの
命が
集った
そうやって
何十年も 何百年も
千年以上 ずっと繰り返して
人も 鳥も 虫も けものも 稲も
目には見えないくらい小さな生きものたちも
命を繋いで 生きてきた
その恵みを 受けて
命を繋いで
みんなで 生きてきたから
刈られた 稲さんたちは
悲しくは なかった
自分の役目を知っていたから
少し前から
人の たくさんの足跡が
この田んぼに 戻ってきた
田んぼは
大きな機械の足跡は
好きではなかった
シラサギや イタチ
タニシや ザリガニの
足跡が 好きだった
じつを言うと
人の足跡が 特に好きだった
特に 裸足の足跡が大好きだった
だって 人も 鳥も
魚も 虫も
みんな生きものは
裸足で田んぼに入ってくるから
稲さんたちは
何度も何度も
種をまき
苗を植える人のことが
本当は
とても好き
終わりは
はじまりへと
続いていると
ちゃんと知っているから
・・・
(おしまい)
〜後記〜
大水が来て大変だった集落の
復旧活動を通して
たくさんとの人と人の
絆が深まり
田んぼで共同で
昔ながらの稲作をしてみることから
始まり
みんな心で
大切なことを想い出す
キッカケにも
なってきている
泥んこまみれの
プロジェクト
2年目の収穫のあとに残った
ぬかるんだ田んぼに入って
仲間たちと協力して
稲刈りをがんばった
そのときのみんなの足跡と
稲の刈りとられた跡をみて
この文章は
一年を振り返るようにして
日記を綴るように
書き記すようにして
生まれました
刈られた稲の株は
死んでしまったのか? って?
ううん
まだ死んでいないのです
ここから また
『彦生え』
と呼ばれる新芽が伸びてきます
まだ稲さんたちは
生きているのです
そして最近知ったのだけど
この彦生えの新芽を残しておけば
また来年もこの株が大きくなって
また稲穂に実をつけるということ
命はまだ生きている!!
どうやら
この物語には
続きがあるようですね
ありがとう 西平島
・・・
2020(R.2)年11月10日
旧暦9月25日
〜風の紙芝居師〜 たけちゃん☆空色
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